第1話：地図が言葉になった日—配車が“検索可能”になるまで

「どこに／いつ／いくらで」を同じ言語にする――地図×決済×評価を束ねた“検索可能な配車”の設計を、段階的に噛み砕く。

配車は「検索」に変わると何が起きるか

路上で手を挙げる行為は、偶然に頼る古いプロトコルだ。これを「検索」に置き換えるとは、需要（いま乗りたい人）と供給（近くの車）を、共通の言語で同時に可視化することを意味する。地図は位置を、決済は価格を、評価は期待値をそれぞれ数値化し、アプリはそれらを一枚の画面にまとめて提示する。以後、配車は“運”ではなく“合意”に近づく。

検索化の要点は三つある。（1）いま手の届く選択肢を地図にプロットする（候補生成）。（2）それぞれの到着予測（ETA）と価格を同時に提示する（ランキング）。（3）取引後は評価とログに変換して次の検索の精度を上げる（学習）。この循環が回るほど、待ち時間のばらつきは減り、体験は安定する。

配車の3層：地図／決済／評価

図1：配車の3層。地図が候補を出し、決済が合意を作り、評価が次回の精度を上げる。

三層は同時に動く。地図は「可能性の集合」を生成し、決済は「総額と条件」を確定し、評価は「結果の記録」を残す。重要なのは、三層の“言語”を揃えることだ。例えば、地図の「5分で到着」は、決済の「いくら払えばいいか」と、評価の「期待どおりだったか」と整合して初めて意味を持つ。

ETA（到着予測）が“待ち時間”を言語化する

ETA（Estimated Time of Arrival）は、ユーザー体験の土台である。単なる距離ではなく、時間帯・信号密度・道路の一方通行・事故・天候などを加味し、分単位の予測を提示する。予測は外れることがあるが、「あと何分」という単位で共有されるだけで、待ちの不安は大きく減る。

前段階ETA：呼ぶ前に表示される到着目安。選択の基準になる。
確定ETA：配車確定後に再計算される目安。ルート確定・進入可否を反映。
連続ETA：移動に伴って更新される目安。遅延要因の検知・共有に使う。

配車の検索化においては、ETAがランキングの第一基準となる。価格が近い場合、より短いETAが上位に出る。逆に、混雑や通行止めでETAが伸びれば、アルゴリズムは他の候補を押し上げる。可視化されたETAは、ユーザーの選択とドライバーの動線を同時に安定させる。

事前見積の意味：価格と時間の同時合意

“検索可能”な配車では、乗る前に提示される見積が中核となる。見積は距離と時間だけでなく、需給のバランス（ピーク時間帯・イベント・悪天候）や、選択した車種の特性を含む。ここで重要なのは、「いつ、いくらで」という二つの合意が同時に成り立つ点だ。

透明性：追加料金の有無、割引適用、キャンセル条件が事前に明示される。
一貫性：最終支払いはアプリ内で完結し、現金のやり取りや口頭の交渉を排す。
納得感：ETAと価格が整合していれば、多少の遅延でも不満は軽減されやすい。

事前見積があることで、ユーザーは“高いか安いか”の判断だけでなく、“この時間にこの価格なら納得できるか”という基準で選べるようになる。これが検索化の本質だ。

評価とログ：ばらつきを抑える調整弁

配車の品質は人が担う以上、ばらつきが生まれる。そこで、相互評価（星・レビュー）とログ（時刻・位置・写真）が調整弁として働く。良い対応は次回の推薦に寄与し、問題のある対応は抑制される。サポートの判断（再配車・返金・補償）にも、ログは必須の根拠となる。

予防：低評価が続く行動（無断キャンセル・不潔・乱暴な運転）はアルゴリズムで抑止。
学習：遅延の多いエリア・時間帯を特定し、ETAやルーティングに反映。
可視化：玄関前写真や受け渡し種別の記録は、トラブル時の共通認識をつくる。

失敗の設計：遅延・キャンセル・安全

検索化された配車でも、遅延やキャンセルはゼロにならない。重要なのは、失敗時の路線がはじめから設計されていることだ。

遅延：ETAの上振れを検知→ユーザーへ共有→代替案（別候補）を提示。
キャンセル：ルールに基づき手数料と再配車の可否を自動判定。
安全：行先や連絡の匿名化、ルート逸脱の検出、異常時のサポート直通導線。

失敗の設計が弱いと、評価が機能していても体験は脆くなる。逆に、失敗時の摩擦が低ければ、ユーザーは“また使う”を選びやすい。

日本での最適化ポイント

確実性＞速さ：数分の短縮より、到着予測の正確さと説明責任を重視。
清潔の可視化：車内・身なり・受け渡しの写真と文言で不安を低減。
総額の納得感：事前見積の内訳とキャンセル条件を明確に。

この三点は、配車とデリバリー双方に共通する。特に初回利用では、説明のわかりやすさが再訪率を大きく左右する。

まとめと次回予告

配車を“検索可能”にするとは、地図・決済・評価の三層を同じ言語で束ね、ETAと事前見積で「いつ・いくら」を同時に合意することだ。相互評価とログはばらつきを抑える調整弁となり、遅延・キャンセル・安全の失敗設計が体験を支える。次回は、この延長線にあるテーマ――「待ち時間という在庫—価格と時間の再設計」を掘り下げる。