結論：“低単価の1本目”は、単体で黒にする案件ではなく、10分以内の次受注（Chain）を最大化するための位置取り投資である。勝ち筋は、①店群密度、②時間帯の波、③導線（信号・橋・坂・館内長導線）の3要素が噛み合う交点に、短時間・短距離で“体を運ぶ”こと。評価軸は面残り率×次単価×サイクル時間の積であり、単価の“安さ”そのものは意思決定の主変数ではない。逆に、面外へ流すロング/波から遅れる/導線が詰む1本目は、連鎖が切れて真の“損”に落ちる。
1. 理論（3本柱）
- 確率ブースト：赤/オレンジのハブ内側に滞在すると到着後10分以内の受注確率が跳ねる。母集団（待機者×店数×調理回転）の掛け算。
- 時間スライス：昼/夕は10〜20分刻みで“波”がある。1本目の役割は時刻合わせであり、波の“頭”に自分を乗せること。
- 導線短縮：信号密度/橋/坂/館内導線の摩擦を1本目で回避すると、その後のサイクル時間が恒常的に短くなる。
ワンポイント：1本目は「いま安いか？」ではなく、「次の10分をどう設計するか」の意思決定。
2. 判定式（現場で3秒で決まる版）
| 変数 | 定義 | 基準 |
|---|---|---|
| P_next | 到着後10分以内の次受注確率 | 昼≥0.45／夕≥0.60／深夜≥0.35 |
| AOV_next | 到着ハブの次単価中央値 | 自分の通常AOV比 +10〜25% |
| D_total | ピック→ドロップ＋内側までの戻り距離 | 原付＜7km／自転車＜4.5km |
| Stay_rate | 完了時点で狙い面に留まれる確率 | ≥0.60 |
意思決定：Score = (P_next × AOV_next) ÷ サイクル時間。Scoreが“その場待機”を上回れば取る。
3. 面×時間帯（交点を掴む）
| 面タイプ | 効く時間帯 | 狙い | NG |
|---|---|---|---|
| 駅前商業ハブ | 昼12:00–13:30／夕18:00–20:00 | 短距離で内側に侵入 | 駅反対側へ出るロング |
| 住宅密集ハブ | 昼前後／夕前半 | 店→住宅の下り導線に乗る | 住宅→住宅の横移動 |
| モール複合（EV混雑） | 夕後半／土日昼 | 搬出口側への短導線で入る | 館内長導線スタート |
| 川/橋境界 | ピーク全般 | 橋を渡らず同側に留まる | 橋越えロング1本目 |
「交点」とは、面密度×時間帯の山×導線の素直さが重なる地点のこと。
4. 距離と時間（体感補正を必ず掛ける）
原付（目安）
- 平地：片道≤3.5kmなら余地あり。
- 坂/橋あり：片道≤2.5kmへ圧縮。
- 信号密度↑：距離×1.2で体感時間換算。
自転車（目安）
- 平地：片道≤2.2kmが現実ライン。
- 坂/橋：片道≤1.6km。
- 横風/雨：距離×1.3で遅延補正。
距離は“時間の代理”でしかない。信号/右折待ち/横断帯は必ず補正。
5. 店種×単価（1本目に向く/向かない）
| 店種 | 適性 | 理由 | 注意 |
|---|---|---|---|
| ファストフード群 | ◎ | 回転早＋密度高 | 昼ピークはピック込む |
| チェーンカフェ | ○ | 波が安定、内側残りやすい | 駅反対側に落ちる店を除外 |
| 個店ラーメン/丼 | △ | 単価ブレ大 | 混雑変動に弱い |
| モール内kiosk | △→○ | 短導線店は可 | 長導線店は不可 |
6. 受け方テンプレ（秒で動ける流れ）
- 通知（3秒判定）：距離×地形補正が閾値内？ ドロップ後に内側へ残れる？
- 受領（60秒）：搬出口側で受け、袋口は即縛り。バッグは上軽下重。
- 移動（本編）：橋/右折多/長信号を避け、直線で結ぶルートへ。
「残れない低単価」は捨て。面外へ出す投資は回収不能。
7. 位置×姿勢（受かる人のたたずまい）
位置
- 交点（赤×赤）の外周で出入り自由。
- 店群の搬出口側に寄せる。キッチン→搬出→積込が一直線。
姿勢
- 通知は即応音量、画面は受注に最短。
- バッグは即締めできる配置。雨は即カバー。
8. 失敗例（典型を先に潰す）
- 面外ロング：橋越えで駅反対側へ。戻りで波を逃す。
- 導線ボトルネック：モールEV待ちで時間消失。
- 信号地獄：幹線斜め割りで体感時間が1.3倍。
- 袋小路ドロップ：戻る間に“赤”が消える→以降は除外ルールへ。
9. KPI（1本目→2本目の連鎖を数字で）
| 指標 | 定義 | 目標 |
|---|---|---|
| Chain率 | 完了後10分以内の次受注割合 | 昼0.45／夕0.60／深夜0.35 |
| 面残り率 | 狙い面に留まれた割合 | ≥0.60 |
| 戻り距離中央値 | ドロップ→内側までの距離 | 原付≤1.2km／自転車≤0.8km |
| サイクル時間 | ピック→ドロップ（信号含む） | 面の基準−10% |
週報は「低単価1本目→以降の総粗利」で評価。単体の原価割れ議論は意味が薄い。
10. ケーススタディ（再現性重視）
- 昼12:05 FF→住宅1.6km（原付）：内側着→Chain0.62。3本連鎖でAOV+18%。
- 夕18:10 カフェ→オフィス0.9km（自転車）：戻り0.6km、波の頭に合流。
- 夕19:00 橋越え2.8km：戻り2.4kmで赤消失→以降“無”。次回から除外。
- 土昼 モールkiosk→近隣住宅：館内短導線なら○、長導線店は×。
- 深夜 住宅→住宅横移動：Chain低。1本目の旨味なし→捨て。
- 雨強 坂上り→駅前：距離×1.3補正でも遅延→見送り。
- 駅前複合：1本目で内側→ダブル誘発→Chain0.66まで上昇。
- 住宅密集：店→住宅の“下り”導線で戻り短縮→連鎖維持。
- 信号高密：幹線交差×3回避→裏道直線で体感−20%。
- 袋小路：右折待ち×2で波逃し→以後は“袋小路タグ”で遮断。
- 駅北口↔南口：南落ちを禁止→面残り率0.68に改善。
- オフィス街：夕後半は外周寄り受け→Chain0.64で安定。
- 【増補】河川境界：橋手前で1本目受け→橋を渡らず内側残し成功。
- 【増補】学園祭日：昼波が前倒し→11:30の低単価1本目が刺さる。
11. ログ設計（“数式で再現”できる形）
| 列名 | 説明 | 例 |
|---|---|---|
| 時刻帯 | 昼/夕/深夜 | 夕 |
| 面ID | 自命名 | 駅西-内側A |
| 1本目距離 | ピック→ドロップ | 1.7km |
| 戻り距離 | ドロップ→内側 | 0.5km |
| 地形補正 | ×1.0/1.2/1.3 | ×1.2 |
| Chain（10分） | 次受注の有無 | 1 |
| AOV_next | 次単価中央値 | ¥720 |
| 面残り率タグ | 残れた=1/離脱=0 | 1 |
| メモ | 信号/右折/橋 等 | 右折待ち×2 |
ピボットで「面×時刻×地形補正→Chain率」を週次更新。閾値は“ログで磨く”。
12. 閾値チューニング（都市差/季節差/天候）
- 都市差：駅間距離が短いエリアは“内側”が薄い→Stay_rateの基準を0.55へ緩和。
- 季節差：夏は人流遅め→夕ピークの波を+10分後ろ倒しで評価。
- 天候：雨は補正↑。原付×雨は距離×1.2、自転車×雨は×1.3で時間換算。
- イベント：花火/学祭は“昼波の前倒し”が起きる。ログでトレンド検出。
指標は“固定値”ではなく“可変パラメータ”。現場のログで毎週アップデートする。
13. Q&A（よくある誤解）
14. チェックリスト（コピー用）
出発前
- 狙い面の内側ポイントを3つ地図にマーク。
- 橋/幹線/館内長導線の回避ルートを保存。
判断前
- 距離×補正が閾値内？
- ドロップ後に内側残りできる？
帰還後
- Chain（10分）/面残り/戻り距離をログ入力。
- 除外店・除外導線を更新（袋小路タグ）。
15. 数式テンプレ（シート用）
=IF( AND(P_next>=Threshold_P, AOV_next>=AOV_base*1.1, D_total<=D_limit, Stay_rate>=0.6), "取る", "捨てる")
Threshold_Pは時間帯で切替（昼0.45/夕0.60/深夜0.35）。D_limitは車種×地形で調整。
16. ミスログ（負け筋を特定して潰す）
- 面外ロングの頻度：週3回超で発生→除外ルールへ。
- 右折待ち渋滞：2回/本以上なら裏導線に置換。
- 館内長導線：EV待ち3分超の店は1本目禁止。
- 橋越え：戻りで“赤”が消える→橋手前受けへ作戦変更。
17. まとめ（要点3）
- 低単価1本目は位置取り投資。評価は連鎖の期待値で。
- 面×時間×導線が噛む交点に短時間で入り、内側に残る。
- Chain率・面残り・戻り距離・サイクルを週次で見直し、閾値を磨く。
※ 各都市・建物・アプリ仕様の変化に応じて、数値は柔軟に更新すること。
次に読む（教科書シリーズ）
※ 本文末は関連2本のみ（運用ルール）。
教科書ハブ
制度・安全・トラブル対応・稼ぎ方を体系化。最新版・索引はハブから。
※ 安全最優先。迷ったら「受けない/戻る/面替え」。
