実務プレイブック｜第9弾
見積り係数カタログ：お願いではなく“設計”で通す
値段は工数×単価×係数。係数は“わがまま料”ではなく、コスト構造の設計要素。本稿は現場で使う13係数をレンジと根拠ごとに整理、さらに電卓と根拠文を自動生成します。
原則：①事実（条件）→②係数→③根拠文→④選択肢→⑤デフォルト（未回答の扱い）
1. 係数カタログ（レンジと根拠）
| # | 係数名 | 推奨レンジ | 使いどころ | 根拠例 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 短納期（特急） | ×1.2〜1.6 | 納期まで7営業日未満 | 並列化/夜間対応/割込みの機会損失 |
| 2 | 不確実性（要件流動） | ×1.1〜1.4 | 要件未確定/CR多発 | 再作業バッファ/探索工数 |
| 3 | セキュリティ/コンプラ | ×1.1〜1.5 | 監査/脆弱性検査/個人情報 | 追加レビュー/運用体制/責任重み |
| 4 | 多言語/多通貨 | ×1.1〜1.3 | 翻訳/表記/決済差 | 言語QA/通貨処理/表記差 |
| 5 | 休日/深夜対応 | ×1.2〜1.8 | 22:00-6:00/土日祝 | 待機/割増人件費/交代制 |
| 6 | 品質等級（高SLA） | ×1.1〜1.4 | 高稼働/監視/復旧SLA | 冗長化/監視/検証強化 |
| 7 | データ連携/依存 | ×1.1〜1.3 | 外部API/他社待ち | 待ちリスク/結合テスト |
| 8 | デザイン厳密度 | ×1.05〜1.25 | ピクセル完璧/微調整多 | レビュー回数/微調整工数 |
| 9 | 改訂回数（レビュー） | ×1.0〜1.3 | 3回超の再提出 | 回数×工数の上振れ |
| 10 | 機密度（NDA/公開制限） | ×1.05〜1.2 | 閲覧制限/個別ID | 権限設計/記録コスト |
| 11 | 可観測性/計測 | ×1.05〜1.2 | タグ/BI/AB含む | 計測設計/検証ループ |
| 12 | 教育/引継ぎ | ×1.05〜1.2 | オンボーディング必須 | 資料化/トレーニング時間 |
| 13 | 保守体制（運用枠） | ×1.1〜1.4 | 監視/一次回答SLA | 待機/交代/アラート整備 |
2. 見積り電卓（根拠文 自動生成）
3. 提示テンプレ（コピペ用）
メール：係数の伝え方
見積り注記（PDF/明細）
4. よくある反論への返し（5つ）
- 「他社は係数を取らない」→ 当方はSLA/監視/監査対応を含みます。条件をそろえた比較表を添付します。
- 「今回だけ据え置きで」→ 据置き可。範囲縮小/品質標準/改訂3回固定の条件でお願いします。
- 「短納期は仕方ない」→ 段階納品に切替で係数を下げられます。
- 「改訂は無制限に」→ 回数制/時間バッファのどちらかを選択してください。
- 「根拠は？」→ 作業ログと監視/待機コスト（組織的リソース）を提示します。
5. 編集後記
係数は“お願い”ではなく設計。条件を言語化し、選択肢とデフォルトを添えるだけで、見積りは通りやすくなります。殿の現場でも、このカタログを共通言語に。
