
デリバリー地政学#04|menuという「不思議な三番手」— 赤字とKDDI連合の本当の狙い
ロケットナウ編では「外様大名」、Uber編では「帝国本隊」、出前館編では「ローカル総本山」を見てきました。
第4回は、正直なところ「不思議でならない三番手」=menuです。
官報ベースの推計では毎年30億円規模の赤字が続いているとされつつ、アプリユーザー数はWoltより多く、日本のデリバリー市場では第三勢力として存在感を維持しています。
しかも、裏側にはKDDIとレアゾンが組んだジョイントベンチャー構造がある。
「なんでまだ立ってるの?」という素朴な疑問を、決算データと資本関係、アプリの立ち位置から整理してみます。
目次
1. menuは何者か — 「後発三番手」の現在地
1-1. コロナ期に台頭した国産アプリ
menuは、もともと2014年に「テイクアウトアプリ」としてスタートし、その後フードデリバリーにも本格参入した国産サービスです。
本社は東京・新宿、運営はmenu株式会社。代表は長くレアゾン・ホールディングスの渡邉真氏が務めてきました。
コロナ禍でのフードデリバリーブームの中、
- 大規模なクーポン・半額キャンペーン
- テイクアウトとデリバリーの両対応
- 「日本発」「国産」を前面に出したブランド
で一気にユーザーを伸ばし、2023〜24年時点では日本市場の「三番手」として認識されています。
1-2. アプリユーザー数は「出前館・Uberの1/3〜1/4」
行動ログデータを使った調査では、2023年6月〜2024年5月の1年間で、
というアプリユーザー数(延べ)が報告されています。
つまり、規模だけ見れば「出前館・Uberが横綱」「menu・Woltが小結〜関脇」という感覚。 それでも、2022年のDoorDashやfoodpanda撤退を考えると、三番手で生き残っているだけでも相当な健闘です。
1-3. 「不思議」さの正体は、数字と資本のギャップ
一方で、官報データなどをまとめた分析によると、menu株式会社は2021年以降も毎年30億円規模の純損失が続いていると推定されています。
アプリユーザー数は伸びているが、PL上は地味に重い赤字が積み上がっている——ここに、我々が感じる「不思議さ」があります。
2. KDDI・レアゾンとのジョイントベンチャー構造
2-1. 2021年:KDDIが20%出資、持分法適用関連会社に
2021年6月、KDDIとmenuは資本業務提携を発表しました。
この時点では、
という位置づけでした。 つまり、KDDIにとってのmenuは、
「au PAY加盟店拡大と、au経済圏の生活サービスの一角」
を担う存在としてマークされていたわけです。
2-2. 2023年:KDDI 50.6%、レアゾン49.4%のJVへ
さらに2023年4月、KDDI・レアゾン・menuの3社は資本業務提携の強化を発表し、
結果としてKDDIがmenu株式の50.6%を保有する筆頭株主となりました(残り49.4%をレアゾンが保有)。
ここでmenuは、実質的に
のジョイントベンチャー(合弁会社)として位置づけ直されています。
2-3. KDDI側の狙い:au経済圏の「生活サービスの駒」
KDDIのリリースや統合レポートを読むと、menuとの提携は、
- au PAYの加盟店ネットワーク拡大
- ID連携によるシームレスなサービス利用
- 5G・通信と生活サービスの連携
という文脈で語られています。
つまり、KDDI側から見たmenuは、
「単体で大黒字を出す事業」よりも、「au経済圏全体の価値を高めるピース」
としての意味合いが強い。 だからこそ、単年30億円規模の赤字であっても、すぐにサービス終了というモードになりにくい構造です。
3. 赤字とユーザー数のリアル — 「細く長く」ではなく「まだ攻め」
3-1. 毎年30億円前後の赤字、それでも撤退せず
官報データなどの解析によれば、menu株式会社は2021〜2025年の各期でおおむね30億円前後の純損失を計上し続けているとされます。
売上規模やGMVは非公開ですが、フードデリバリーの運営コストを考えれば、
- 広告・キャンペーンコスト
- 配達員向けインセンティブ
- システム・人件費
が重く乗っていることは容易に想像がつきます。
3-2. それでも「新規DL数1位」の期間もある
一方で、市場分析レポートでは、2024年上半期に新規ダウンロード数で1位を取った期間があるといった指摘もあります。
つまり、
「やめ際を探して静かに縮小」ではなく、「まだ攻めてユーザーを取りに行っている」
というのが、menuの今の姿です。
3-3. 「撤退しない理由」は、資本と役割の問題
ここまでをまとめると、
という構図になります。 だからこそ、「なんでまだ立ってるの?」という疑問に対する答えは、
「menu単体で見ないほうがいい。au経済圏の一部として見るべき」
というあたりに落ち着きます。
4. menuの差別化戦略 — キャンペーン、テイクアウト、エリア戦略
4-1. 「半額祭」「くじ・ガチャ」系キャンペーンの多用
menuといえば、ユーザーの肌感覚として一番分かりやすいのは大きめのキャンペーンです。
- 半額祭・○○円オフ
- くじ・ガチャ的なポイント還元
- 特定チェーンとのタイアップキャンペーン
こうした「ゲーム的な仕掛け」は、Uberや出前館に比べてもmenuが積極的に打ってきた部分です。 ここはKDDI・レアゾンのマーケティング資本を使いやすい領域でもあります。
4-2. テイクアウトの「足腰」を持っている
menuは元々テイクアウトアプリだったため、いまもテイクアウト注文の導線を持っています。 これは、配達網が薄いエリアや、店舗側が「まずは持ち帰りから」という場合に効いてくる強みです。
デリバリーだけで見ればUber・出前館・Woltのほうが強いエリアでも、
- テイクアウト予約
- au PAYとの連動
と組み合わせることで、「アプリを入れておく意味」を作りやすい構造になっています。
4-3. エリア戦略:都心+au色の強いエリア
公開データから細かいエリア展開までは読み切れませんが、KDDIとの連携を考えると、
は、menuにとって自然な戦い方です。
「全国をくまなく埋める」のではなく、
「au経済圏と相性のいい都市・ユーザーから深掘りする」
という、ややニッチ寄りの地政学ポジショニングを取っていると考えると、全体像がわかりやすくなります。
5. 配達員・注文者から見た「menuの居場所」
5-1. 配達員視点:Uber・出前館の“すき間”を埋めるサブ柱
配達員から見たmenuは、体感として
という「波のあるプラットフォーム」です。
現実的な付き合い方としては、
という“サブ柱”ポジションが落としどころになりやすいです。
5-2. 注文者視点:キャンペーン+au経済圏での「得」が出るか
注文者から見て、menuをメイン or サブで使う価値が出るのは、
という条件がそろったときです。
逆に言えば、Uber Oneや出前館「お店価格」のほうが自分の生活導線に合っているなら、
menuは「たまにキャンペーンをのぞくサブアプリ」として置いておくくらいがちょうどいいバランスかもしれません。
5-3. 「勝者なき競争」の中でのmenuの役割
日本のフードデリバリー市場は、Uber・出前館・menu・Woltが並び、
そこにロケットナウが殴り込んでいる状態です。
この中で、menuが「全部を取る」絵は正直描きづらい。 ただし、
- au経済圏の生活サービスの一角
- キャンペーンとテイクアウトを絡めたニッチ戦略
というポジションに落ち着けば、「勝者なき競争」の中の“第三勢力”として、しぶとく生き残るシナリオは十分あります。
6. まとめ — menu視点の“勝ち”と、Wolt編への橋渡し
6-1. menuが見ている「勝ち」の定義
ロケットナウ・Uber・出前館と並べて眺めたうえで、menu視点の「勝ち」を整理すると、だいたい次のようになります。
- 事業構造:KDDI・レアゾンとのJVとして、au経済圏の生活サービス・決済の入口を担う。
- 市場ポジション:出前館・Uberには届かなくても、アプリユーザー数で三番手を維持し続ける。
- 収益構造:単体黒字だけにこだわらず、経済圏全体のLTVで「存在意義」が出るラインに持っていく。
6-2. 我々ユーザー側の地図の中でのmenu
我々(配達員・注文者)から見れば、menuは
という立ち位置になります。
「全社の中から“正解の1社”を選ぶ」のではなく、
自分の時間・生活導線・経済圏に合わせて、複数社をどう組み合わせるか。 その中でmenuをどのレーンに置くか、という発想が現実的です。
6-3. 次はWolt編 — 「密度とブランド」の北欧勢
ここまでで、
という4つの旗を見てきました。
次は、北欧発のWolt編です。
「密度重視の青いブランド」が、なぜ日本で静かに存在感を保っているのか。
都市ごとのエリア設計・配達品質・ロイヤリティプログラムなどを軸に、
デリバリー地政学の最後のピースを埋めていきます。